Sophie Lewis, “How British Feminism Became Anti-Trans“, (The New York Times, Feb 7, 2019)
ソフィー・ルイスは、イギリスのフェミニズム理論家・地理学者。著書に、Full Surrogacy Now: Feminism Against Family (Verso, 2019)など。
「英国フェミニズムはいかにして反トランスになったのか」は2019年2月7日にニューヨーク・タイムズに掲載されたエッセイで、イギリスで台頭するトランス排除的なフェミニストの動きと背景を紹介しています。
この記事の中でルイスは、アメリカ合衆国(以下、US)と英国(以下、UK)とでは、トランスライツに積極的に反対している勢力に違いがあると指摘します。現在、USにおいて目に見える形で反対しているのは主に宗教右派です。これに対し、UKでは表面上「フェミニスト」に見える人たちが、反トランスのロビー活動を繰り広げ、トランスライツは「女性の消去」につながると主張しているのです。
なぜUKで反トランスのフェミニズムが台頭しているのでしょう。この問いに対し、ルイスは3つの歴史的背景を指摘します。第一は、1990年代〜2000年代初頭に、ポストモダニズムや「似非科学」の広まりへの反応として登場した「懐疑主義」運動です。この運動は、反トランス・フェミニストたちが、自分たちを「しっかりとした大人」とみなす一方、クィアの理論やアクティヴィズムを自己陶酔的で、根本的に英国的でないとする見方につながっています。
第二は、イギリスのフェミニズムが植民地主義と相互に関係してきた歴史です。イギリス帝国主義下では、異性愛とジェンダーの二元論を強制する政策が採用されるとともに、人種的「他者」がイギリス人とは根本的に異なっており、かつ性的に危険な存在だとみなされました。ルイスは、こうした植民地主義的な思考は、反トランスのフェミニストたちに見られる「生物学的事実(biological reality)」を本質的で不変とみなす思考や「他者」を性的に危険なものとみなす思考とパラレルだと主張します(*註)。
第三の背景は、UKのフェミニズム運動の歴史です。ルイスによると、USとは違いUKでは、過去30年にわたり社会運動が相対的に不足してきたこともあり、中流−上流階級の白人フェミニストがマイノリティ女性からの強い批判を受けずに済まされてきました。その結果、UKでは中流−上流階級の白人のフェミニストの見解が無批判に信頼されるとともに影響力を持ち続けており、これが反トランス・フェミニズムの台頭を招く最大の要因となっている可能性がある、とルイスは分析しています。
*)ルイスも指摘するように、アイルランドのフェミニストたちは、UKの反トランス・フェミニズムを却下する理由のひとつとして、植民地主義下での自分たちの経験に言及している(James Wilson, “Stay away from Ireland,” British anti-trans feminists told, 20180123)。